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桃太郎の起業独立物語|グレイナーの企業成長モデル

起業家は、成長の痛みを知っている。
鬼退治を終えた桃太郎は、情熱とアイデアを武器に新たなビジネスへ踏み出します。しかし事業が大きくなるにつれ、組織は予想外の壁にぶつかっていく。経営学者ラリー・グレイナーが提唱した企業成長モデルを軸に、創業から組織化へと至る成長の必然を物語と解説の二部構成でお届けします。

桃太郎の起業独立物語

鬼ヶ島から帰った桃太郎は、鬼退治で得たインスピレーションをもとに新しいビジネスを始めることにしました。

管理されることを嫌う桃太郎は、会社員としての人生より、自分の創造性を発揮してアイデアをカタチにしていくことを選んだのです。

桃太郎がビジネスの可能性をアツく語ると、投資家は喜んで資金を出資しました。
桃太郎が競合に対する優位性をスマートにプレゼンすると、金融機関はこぞって融資を申し出ました。

なにより、自分のビジネスを一番楽しんでいる桃太郎に顧客は共感し、ビジネスは加速していきます。

桃BIZ(※桃太郎のビジネスのこと)の売上は順調に拡大していきます。スタッフも徐々に増えてきました。

桃太郎は何事も人任せにすることなく、トップダウンで事業を目指す方向に力強く牽引していきます。

「それじゃダメだ!」「何やってんだバカ野郎!」
熱狂の中で仕事をしているため、時にはアツすぎる想いが言葉に出てしまう時もあります。

そして桃太郎のこだわりは、業務の増加に伴って社内の混乱を呼ぶことになります。いつの間にか桃太郎の嫌いな「管理」をする必要性に迫られることになったのです。

そこで桃太郎は、一緒に鬼退治をした犬に相談し、実務マネージャーとして参加してもらうことにしました。

犬は優秀なNo.2として采配を振ります。社内のルールを整備し、業務を効率化していったのです。

今までは一人で何役も兼務していた状態から、営業部、総務部、人事部などの役割分担が行われ、部長や課長などの上下関係も生まれていきます。

しかし、組織やコミュニケーションがフォーマルになった反面、現場のスタッフが桃太郎から直接想いやビジョンを聞く機会は少なくなってしまったようです。

犬の参加で業務は効率化されましたが、まだこの段階でも意思決定は桃太郎が行っていました。桃太郎が決めたことをマネージャーが現場に落とし込む、といった具合です。

しかし、現場のスタッフは最前線で経験を積むことにより、マネージャーよりも高度な知識を持つようになってしまいました。

その結果スタッフは、上からの指示に従うべきか、それとも現場のニーズに沿った動きをすべきか、迷うようになります。

はじめはうまくいっていたのに、どうやら最近では組織内がギクシャクしてきたようです。

そんな桃太郎に試練が襲いかかります。

なんと信頼していた部下が1,000万円もの金を横領していたことが発覚。

また、別の部下は子飼いのスタッフを大勢引き連れて退職し、桃太郎と似たようなビジネスを始めてしまいました。
しかも、桃BIZの顧客データも根こそぎ持っていかれたことが後からわかったのです。

このとき、プライベートでも色々とあったようですが、桃太郎は悲しい目をして、多くを語りませんでした。

しばらく落ち込んでいた桃太郎でしたが、このまま死ねるかよと奮起します。

ギクシャクしていた社内の雰囲気を払拭すべく、現場への権限移譲を推し進め、ビジネスを力強く前進させようとします。

インフォーマルなコミュニケーションが少なくなっているのを補うために、しっかりとしたクレドもつくりました。

桃太郎が一人で始めたビジネスは、今では多くのスタッフに支えられています。桃太郎は、この桃BIZは自分のためだけにあるのではないのだ、と自覚をしました。

権限委譲を進めた結果、ビジネスは安定的に推移していくようになりました。
現場では犬をはじめ好業績を上げるマネージャーが続々と現れます。

桃太郎はさらに組織を良くしていくためには、マネジメントを専門とする上級管理者が必要だと考えました。

そこで、一緒に鬼退治をした猿に相談してみました。
実は猿は、鬼退治から帰還した後、監査法人でIPO(株式公開)実務を担当していたのです。

猿には、CFO(最高財務責任者)として桃BIZに参加してもらうことになりました。

猿は張り切って、ルールや制度を充実させます。
業務の標準化が進み、管理体制のシステム化も進んでいきます。業務効率は大幅に向上しました。

今まで曖昧だった社内の規律もピシッと引き締まりました。

しかし、いいことばかりではありません。

システム化や管理を推し進めていった結果、報告書など内向きの仕事に時間をとられるようになってしまいました。

また、ルールを守らせることが主目的になってしまう管理者や、とにかくルールだけを守ればよいと考えるスタッフが現れてしまったのです。

犬たち現場マネージャーたちが好業績を上げる一方、猿たち上級管理者はシステム化を進めます。

現場マネージャーはさらなる権限移譲を望み、上級管理者は集権化を図ります。

今ここに、現場マネージャーと上級管理者のすさまじい綱引きが始まってしまったのです。

犬と猿が犬猿の仲になってしまったのを見て、桃太郎は思いました。

桃BIZも大きくなったもんだな、と。
~おしまい~

解説①グレイナーの成長モデル

企業は、創業すればそのまま順調に成長し続けるわけではありません。むしろ、成長の過程では、ある段階ごとに特徴的な課題や混乱が生じ、それを乗り越えることで次のステージへ進んでいくと考えられています。組織成長のプロセスを体系的に整理した代表的な理論が、経営学者ラリー・E・グレイナー先生によって提唱された企業成長モデルです。

このモデルでは、企業の成長は「進化(Evolution)」と「革命(Revolution)」の繰り返しとして説明されます。進化とは、現在のやり方が機能して比較的安定している期間を指し、革命とは、これまでのやり方が通用しなくなり、大きな混乱や危機が生じる転換点を意味します。グレイナーは、企業の成長段階を大きく5つ(後に6段階)に整理しました。

①創造性による成長(Creativity)
創業期は、創業者の情熱や創造性が原動力となります。製品やサービスの開発、顧客の獲得など、すべてが手探りの中で進められます。組織は非公式で、コミュニケーションも直接的です。しかし、事業が拡大すると、創業者一人では管理しきれなくなります。これが、リーダーシップの危機です。この危機を乗り越えるために、専門的なマネジメントの必要性が生まれます。

②指示による成長(Direction)
専門マネージャーが登用され、組織構造や役割分担が整備されます。業務は標準化され、効率性が向上します。しかし、現場の裁量は限られ、中央集権的な意思決定が続くことで、現場の不満や柔軟性の欠如が問題となります。これが、自律性の危機です。現場は、より大きな裁量を求めるようになります。

③権限委譲による成長(Delegation)
現場に権限が委譲され、マネージャーが主体的に意思決定できるようになります。組織は迅速に対応できるようになり、事業はさらに拡大します。しかし、分権化が進むと、組織全体としての統制が弱まり、部門間のばらつきや不正、統一感の欠如といった問題が生じます。これが、統制の危機です。トップは再び統制の必要性を感じます。

④調整による成長(Coordination)
統制を回復するため、管理システムや評価制度、標準化プロセスが整備されます。組織全体の効率性と統一性が高まります。しかし、ルールや手続きが増えすぎると、柔軟性が失われ、官僚化が進みます。これが官僚主義の危機です。手続きが目的化し、現場の活力が損なわれます。

⑤協働による成長(Collaboration)
官僚化を乗り越えるため、組織はより柔軟な協働体制へと移行します。部門横断のチーム、信頼に基づくマネジメント、価値観の共有などが重視されます。形式的な統制ではなく、共通のビジョンや文化が組織をまとめる役割を担います。

このモデルが示唆しているのは、組織の課題は失敗ではなく「成長の副作用」であるということです。今のやり方が通用しなくなるのは、組織が次の段階へ進む準備が整った証拠とも言えるのです。

解説②物語の読み解き

桃太郎が立ち上げた桃BIZの歩みは、グレイナーの企業成長モデルに沿った典型的な成長プロセスとして読むことができます。

①創造性による成長期
創業当初の桃太郎は、自らの情熱とビジョンを原動力にビジネスを推進しました。顧客は桃太郎の熱量に共感し、事業は急速に拡大していきます。しかし、事業の拡大に伴い、創業者一人の統率では混乱が生じ始めました。リーダーシップの危機に対応するため、桃太郎は犬をナンバー2として迎え入れます。

②指示による成長期
犬の参画により、役割分担や組織構造が整備され、業務は効率化されていきました。
しかし意思決定は依然としてトップ主導であり、現場は指示に従う立場に置かれています。やがて現場のスタッフは、実務を通じて高度な知識を持つようになり、上からの指示と現場ニーズの間で葛藤を抱えるようになります。

③権限委譲による成長期
組織内の不協和音や不祥事を経験した桃太郎は、現場への権限委譲を進めます。クレドの策定や価値観の共有も行われ、組織は再び活力を取り戻しました。現場マネージャーたちは主体的に成果を上げるようになります。

④調整による成長期
さらに組織を整備するため、猿をCFOとして迎え、制度や管理体制の整備、業務の標準化、システム化が進められました。これにより組織効率は向上しましたが、同時に報告業務やルール遵守が目的化し、現場の柔軟性が損なわれ始めます。官僚主義の兆候がみられはじめました。

⑤次の段階への兆し
現場マネージャーはさらなる裁量を求め、上級管理者は統制強化を志向します。この緊張関係は、組織が次の成長段階へ移行する直前に見られる典型的な兆候とも言えるでしょう。

桃太郎が「大きくなったものだな」と感じたのは、組織が個人の事業から社会的な存在へと変化しつつあることを実感した瞬間だったのかもしれません。グレイナーのモデルに照らすと、桃BIZが直面している葛藤は失敗ではなく、成長の必然的なプロセスです。組織が次の段階へ進むためには、統制と自律、効率と柔軟性、制度と信頼といった相反する要素のバランスを、より高い次元で統合していくことが求められるのです。

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