Behavioral Economics, blog

「罰」は損でもやるんやで

※行動経済学の考え方を、中学生にもわかるように解説しています。

「罰」は損でもやるんやで── 利他的罰(Altruistic Punishment)と社会的制裁の心理

「ルールを破った人がいる。でも自分には関係ないし、放っておこう」

――そんなとき、「それはズルいよ」と注意する人がいたら、どう思いますか?
しかもその人は、注意したせいで面倒なことになったり、自分が損をしたりするかもしれないのに……。

実は、人間は“自分が損をしてでも、ルール違反を見逃さずに罰を与える”ことがあるのです。
このような行動は、「利他的罰(りたてきばつ)」と呼ばれています。

人は、自分が損をしてでもズルをゆるさないのか?

スイスの研究者、エルンスト・フェールとウルス・ゲヒターは、「公共財ゲーム」と呼ばれる実験を使って、人間がどんなときに協力するかを調べました。
このゲームでは、参加者は自分のお金を「みんなのための箱」に出すか、自分のために取っておくかを選べます。

みんなが出し合えば全体が得をしますが、自分だけ出さずに他の人の分に乗っかれば「ズルして得する」ことができます。
ここで驚くべきことが起こります。

誰かがズルをしたとき、他の人は自分のお金を使ってまで、その人に“罰”を与えるのです。

つまり、自分の手元からお金が減っても、「ズルは許されない」と思って制裁を加えるのです。
この行動は、将来的な見返りがあるわけでも、自分の得になるわけでもありません。

「ルールを守ってほしい」「不公平は見過ごせない」という強い気持ちからくる行動です。

世界中のいろんな国や文化で、人が“ズルを見たときに注意する”行動があるかどうかを調べた研究

では、このような「罰をする行動」は世界共通なのでしょうか?
アメリカやヨーロッパだけの話ではないか――そう考えた研究者、ジョセフ・ヘンリックたちは、 南米、アフリカ、アジアなどの15以上の地域社会で同じような実験を行いました。

結果は明らかでした。
文化ごとに違いはあるものの、ほとんどすべての地域で「ズルした人に罰を与える」行動が見られたのです。

つまり、「協力を守るために罰する」という行動は、人間にとって普遍的な傾向だとわかりました。

教室での例で考えてみよう

  • 掃除の時間にサボっていた友達に「ちゃんとやって」と声をかける
  • みんなで決めたルールを守らない人に、みんなで注意する
  • ふだんは優しいけど、ルール違反には厳しいクラスメイト

こうした行動は、「損しても正しさを守る」――まさに利他的罰の一種です。

なぜ人は“損してまで罰する”のか?

一見すると、「自分が損をするのに罰するなんて変だ」と思うかもしれません。

でもこれは、社会全体のルールや協力関係を守るための“心の働き”なんです。
もし誰もズルを止めなかったら、ズルをする人が得をして、真面目にやる人が損をします。

そんな社会では、だんだんとみんなが協力しなくなってしまいます。
だからこそ、人は「ズルは許さない」「ちゃんとやろうよ」という気持ちを持っていて、

ときには自分が損をしてでも、ルールを守らせようとするのです。

まとめ

  • 人は、自分にとって損でも「ズルは許さない」と思って罰を与えることがある
  • それは、正しさを守るための“勇気ある行動”でもある
  • 世界中でこうした行動が見られ、人間にとって自然な傾向であるとわかっている

教室でも同じで、ルールを守る文化を支えるのは、こうした「注意する勇気」や「正義感」なのです

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