※進化心理学の考え方を、中学生にもわかるように解説しています。
友だちに“お返し”したくなるのはなぜ? ── 互恵性と協力の進化
友だちに消しゴムを貸してもらったら、次は自分がペンを貸してあげたくなる。
手伝ってもらったから、今度は自分が相手の手助けをしようと思う。
こうした「お返し」の気持ちは、日常でもよくある自然な感情です。
でも考えてみると、不思議だと思いませんか? なぜ私たちは、すぐに得になるわけでもないのに、他人にやさしくするのでしょうか?
「助けたら、いつか返ってくる」――それが生き残るカギだった?
1971年、ロバート・トリヴァースという学者が「互恵的利他主義(ごけいてきりたしゅぎ)」という考えを発表しました。
これは、「たとえ血がつながっていなくても、“今、相手を助ければ、将来、自分も助けてもらえるかもしれない”という期待のもとに人は協力する」という進化的な仕組みです。
たとえば、AさんがBさんに食べ物を分けてあげたとします。
Bさんはそのとき何も返せなかったとしても、後日、Aさんが困っていたときに助けることで、お互いが得をするのです。
でもこの仕組みがうまく働くためには、「また会えること」「相手を覚えておくこと」「裏切る人を見抜くこと」が必要です。
つまり、人間が「記憶力」や「観察力」「怒りの感情」を持っているのも、こうした仕組みに関係しているかもしれないのです。
協力を続けるコツは「しっぺ返し」?
1981年、アクスロッドとハミルトンという研究者は、進化する協力をシミュレーションゲームで調べました。
その中で最も強かった戦略が「しっぺ返し(Tit for Tat)」です。
これは、「最初は協力して、次は相手の行動をまねする」というシンプルなルール。
つまり、相手が協力してくれたらこちらも協力し、裏切られたら次はこちらも裏切る、というものです。
このルールが強い理由は、最初に信頼を示すことができて、なおかつ裏切りにはちゃんと反応できるから。
現実の人間関係でも、「最初は仲良くしたいけど、ずっと我慢するわけじゃないよ」というバランス感覚が大切なのかもしれません。
「ギブ&テイク」は、ただのマナーじゃない
誰かにやさしくするのは、いい人ぶってるだけではなく、人間の生き残りのために身についた“戦略”だったのです。
トリヴァースは、こうした「交換の精神」は、人間だけでなく、コウモリやサルのような動物にも見られると述べています。
人間は、たとえ血縁でなくても、「信用できる関係を続けたい」という気持ちから協力を選ぶのです。
この気持ちは、家庭でも学校でも、社会でも大事にされている“つながり”の基盤なのです。
学校や家での例
- テスト勉強を手伝ってもらったら、今度は自分がノートを貸す
- クラスでお互いの仕事を手伝って、ありがとうと言い合う
- 図書委員で先に準備してくれた子に、お礼に片付けを代わってあげる
「してもらったから返したい」という気持ちは、無理してるわけじゃなく、自然に生まれる協力のしくみなんです。
まとめ
- 血のつながりがなくても、「お返しの期待」で協力は進化できる
- 互恵的利他主義は、「今助けて、あとで助けてもらう」生き残りの戦略
- 「信頼できる関係を続けること」が、長期的に見てとても大切
- 協力は、感情と計算の両方が働いている“人間らしい”行動