※行動経済学の考え方を、中学生にもわかるように解説しています。
協力するこころの“深いしくみ”をさぐる── 進化・神経・文化の視点から
ここまで、人が「不公平を嫌う」「信頼を返したい」「みんながやってたら自分も協力する」といった心の動きを学んできました。
じゃあ、なんで人はそんなふうに感じるようになったんでしょう?
今回はそれを、「進化」「脳」「文化」の3つの視点から見てみます。
なんで人は、見返りがなくても親切にできるの?──“評判”が協力を広げるしくみ
ノワクとジグムントの研究では、人が「見返りがなくても他人に親切にできる理由」を、進化のしくみから説明しています。
たとえば、学校の廊下で落ちているプリントを拾ってあげたとき。
その相手が友達でもなければ、お礼も言われないかもしれない。
でも、周りの誰かがその行動を見ていたら…
「この人はええ子やな」「信頼できそう」と“評判”が上がるかもしれません。
このように、「他人に見られていることで、親切が返ってくる」という仕組みを間接互恵性(かんせつごけいせい)と言います。
人間はこの“評判”を気にする性質があるからこそ、協力が広がりやすいんですね。
人はどうして“損”や“ズル”に反応するの?──脳のしくみから行動をさぐる研究
カメラーとローウェンスタインとプレレックの研究は、「公平さ」や「ごほうび」が、脳のどこでどう感じられているのかを調べたものです。
MRI(脳の中を見る機械)を使って、協力するとき、裏切られたとき、人に親切にされたときなどに、どの脳の部分が反応するかを観察しました。
すると、
- 公平な取り分をもらったときに、快感を感じる部分が動く
- ズルを見たときに、不快を感じる部分が反応する
など、協力や不公平に対する“こころの反応”がちゃんと脳にもあらわれることがわかりました。
つまり、人のこころの動きは、「なんとなくの感情」だけではなく、脳にしっかり組み込まれた反応でもあるのです。
国がちがっても、協力って大切?──世界の人たちはどうやって“ズル”を止めてるのかを調べた研究
ヘンリックなどの研究では、どの文化でも協力が大事にされているけれど、やり方はけっこう違うということもわかってきました。
たとえば:
- 小さい子どもに「人を助けなさい」と教える文化
- グループの中でお互いに注意し合う文化
- 恩を“あとで返す”ことをとても大事にする文化
どれも、「人と人とのつながりを大切にしよう」という共通の目的をもっています。
つまり、協力する気持ちは“人間みんなにあるけど、その育て方は文化によってちがう”んですね。
まとめ
- 人は、「誰かに見られている」「評判がある」ことで、親切や協力をしやすくなる(進化的なしくみ)
- 脳の中にも、「フェア」「ズルい」といったことを感じとるしくみがある(神経のしくみ)
- 協力の考え方や育て方は、国や文化によってもさまざま(文化のしくみ)
- 協力は“心の問題”だけじゃなくて、“からだと社会のしくみ”にも深く関係している