「千の顔を持つ英雄」(The Hero with a Thousand Faces)は、アメリカの神話学者ジョゼフ・キャンベルが1949年に発表した著作で、神話や物語に共通する構造やテーマを分析したものです。
キャンベルはこの中で、「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」という概念を提唱し、多くの神話や伝説に見られる普遍的なストーリーパターンを解説しました。
このパターンは、世界中の文化に共通する基本的な物語の構造を示しています。
ヒーローズ・ジャーニーの構造
キャンベルの「ヒーローズ・ジャーニー」は、以下の主要な段階から成り立っています:
通常の世界: 物語の主人公(英雄)は、冒険が始まる前の普通の生活を送っています。冒険への呼びかけ: 主人公は冒険や新しい挑戦に呼びかけられます。拒否の段階: 主人公は一度その呼びかけを拒否することがあります。賢者との出会い: 主人公は導き手や師となる賢者と出会い、助言や特別な道具を受け取ります。試練の始まり: 主人公は冒険に踏み出し、様々な試練や敵と向き合います。仲間や敵の発見: 主人公は仲間を見つけ、敵とも遭遇します。最大の試練: 主人公は最大の試練や危機に直面し、自身や世界の運命を左右する戦いを行います。報酬の獲得: 試練を乗り越えた後、主人公は報酬や知恵、力を手に入れます。帰還の道: 主人公は元の世界に戻る道を辿ります。帰還と変容: 主人公は元の世界に戻り、新たな力や知恵を用いて周囲に影響を与えます。キャンベルの影響
キャンベルの「ヒーローズ・ジャーニー」は、文学、映画、ゲームなど、様々なストーリーテリングに影響を与えました。
特に有名なのは、ジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』で、キャンベルの理論に大きく影響を受けたと言われています。
その他にも、『ハリー・ポッター』シリーズ、『ロード・オブ・ザ・リング』、『ライオン・キング』など、多くの物語がこの構造を踏襲しています。
普遍的なテーマ
キャンベルは、ヒーローズ・ジャーニーがなぜ多くの文化で共通して見られるのかについて、人間の無意識にある普遍的なテーマやシンボルが関係していると考えました。
彼は、これらの物語が人間の心理的成長や自己発見、変容のプロセスを象徴していると述べています。
「千の顔を持つ英雄」は、物語の構造を理解する上で非常に有用なフレームワークを提供し、現代の物語創作にも大きな影響を与え続けています。
キャンベルの理論を学ぶことで、物語の深層にあるテーマや構造をより深く理解することができます。
ジョゼフ・キャンベルの「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」の理論は、古典的な神話から現代の映画や文学に至るまで、多くの物語に当てはめることができます。
以下に、いくつかの具体的な例を挙げて説明します。
『スター・ウォーズ』シリーズ(ジョージ・ルーカス)
『スター・ウォーズ』は、キャンベルの「ヒーローズ・ジャーニー」を非常に忠実に再現した例です。
通常の世界: ルーク・スカイウォーカーはタトゥイーンで普通の生活を送っています。冒険への呼びかけ: ルークは、R2-D2のメッセージを通じて、レイア姫を救う冒険へと誘われます。拒否の段階: ルークは最初、叔父と叔母を守るために冒険への参加を躊躇します。賢者との出会い: ルークはオビ=ワン・ケノービと出会い、ジェダイの道を学びます。試練の始まり: ルークはデス・スターを破壊するための冒険に出発します。仲間や敵の発見: ルークはハン・ソロやレイア姫などの仲間を見つけ、ダース・ベイダーなどの敵と戦います。最大の試練: ルークは最終的にダース・ベイダーとの決戦に臨みます。報酬の獲得: ルークは父親の正体を知り、フォースの力を理解します。帰還の道: ルークは新たな知恵と力を持って帰還します。帰還と変容: ルークはジェダイの騎士として成長し、銀河の平和を守るために行動します。『ハリー・ポッター』シリーズ(J.K.ローリング)
『ハリー・ポッター』シリーズも「ヒーローズ・ジャーニー」に当てはまる多くの要素を含んでいます。
通常の世界: ハリーはダーズリー家で虐待されながらも普通の生活を送っています。冒険への呼びかけ: ハリーはホグワーツからの手紙を受け取り、魔法の世界へと誘われます。拒否の段階: ダーズリー家がハリーを魔法学校に行かせないようにしますが、最終的にハリーは行くことを決意します。賢者との出会い: ハリーはダンブルドアやハグリッドなどの指導者と出会い、魔法の世界を学びます。試練の始まり: ハリーはホグワーツでの学びや試練を経て成長します。仲間や敵の発見: ハリーはロンやハーマイオニーといった仲間を得て、ヴォルデモートやその手下たちと戦います。最大の試練: ハリーはヴォルデモートとの最終決戦に臨みます。報酬の獲得: ハリーはホグワーツと魔法界を救い、ヴォルデモートを倒します。帰還の道: ハリーは新たな知識と経験を持ち、ホグワーツでの生活を続けます。帰還と変容: ハリーは魔法界での平和を守るために成長し、未来を切り開いていきます。『ライオン・キング』(ディズニー)
『ライオン・キング』もまた、キャンベルの「ヒーローズ・ジャーニー」の典型的な例です。
通常の世界: シンバはプライド・ランドで王子として普通の生活を送っています。冒険への呼びかけ: シンバは父ムファサの死をきっかけに新たな運命に呼び出されます。拒否の段階: シンバは自責の念からプライド・ランドを去ります。賢者との出会い: シンバはティモンとプンバァ、そして後にラフィキと出会い、助言を受けます。試練の始まり: シンバは自分の過去と向き合い、王としての責任を理解します。仲間や敵の発見: シンバはナラや他の動物たちと再会し、スカーとその手下と対決します。最大の試練: シンバはスカーとの最終決戦に臨みます。報酬の獲得: シンバはスカーを倒し、プライド・ランドを取り戻します。帰還の道: シンバは王としてプライド・ランドに戻ります。帰還と変容: シンバは新たな王として成長し、平和と繁栄をもたらします。これらの事例は、キャンベルの「ヒーローズ・ジャーニー」がいかに物語の基本構造として広く適用されているかを示しています。
物語の登場人物がどのように成長し、変化し、最終的にどのような影響を与えるかを理解する上で、このフレームワークは非常に有用となるでしょう。