野中郁次郎という名前を聞くと、ビジネスや経営の世界に詳しい人々はすぐに「知識創造」の権威として思い浮かべるでしょう。
彼と竹内弘高が提唱したSECIモデルは、企業や組織における知識の創造と共有のプロセスを描いたものです。
このモデルは、暗黙知と形式知という二つの異なる知識がどのように相互作用して新たな知識を生み出すのかを示しています。
SECIモデルとは
SECIモデルは、知識創造のプロセスを以下の4つのステップに分けています:
社会化(Socialization):個人同士が暗黙知を共有する段階
外在化(Externalization):暗黙知を形式知に変換する段階
結合(Combination):形式知を組み合わせて新しい形式知を生成する段階
内在化(Internalization):形式知を再び暗黙知に変換する段階
これらのプロセスは、螺旋状に繰り返され、知識が継続的に創造されていくのです。
ステップ1:社会化(Socialization)
社会化とは、直接の経験や観察を通じて暗黙知を共有するプロセスです。
例えば、新入社員が先輩の仕事を見ながらその手法を学ぶ場面を思い浮かべてください。これは単なる教科書的な学びではなく、「見て覚える」「感じて学ぶ」体験です。
事例:
トヨタ自動車では、新入社員が熟練の技術者と一緒に作業する「OJT(On-the-Job Training)」が一般的です。
この実地訓練を通じて、暗黙知が直接的に伝えられます。つまり、書面では伝わらないノウハウやコツが、先輩社員から後輩へと受け継がれていくのです。
ステップ2:外在化(Externalization)
外在化とは、暗黙知を形式知に変えるプロセスです。
これは、アイデアや経験を言葉や図に変換する作業であり、ブレインストーミングや議論を通じて行われます。
事例:
ソフトウェア開発チームが新しいプロジェクトに取り組む際、メンバーが自分のアイデアや経験を出し合い、それを設計図や仕様書としてまとめます。
これにより、個々の知識がチーム全体で共有できる形式知として文書化されます。
ステップ3:結合(Combination)
結合は、形式知を組み合わせて新しい形式知を生み出すプロセスです。既存のデータや情報を集約し、新しい知識として再構成します。
事例:
製薬会社では、新薬の開発において既存の研究データや特許情報を分析し、それらを基に新しい薬の開発計画を立てます。
こうして、既存の形式知が結びつき、新たな知識が創造されます。
ステップ4:内在化(Internalization)
内在化は、形式知を暗黙知に変えるプロセスです。
これは、学んだことを実際に行動に移すことで、自分自身の知識として内在化することを意味します。
事例:
IT企業での新しいソフトウェアのトレーニングでは、社員がマニュアルを読んで理解した後、それを実際の業務で使ってみることで知識を自分のものにします。
こうして、形式知として学んだことが、実践を通じて暗黙知として定着します。
SECIモデルの応用と効果
SECIモデルは、多くの業界で応用されています。
例えば、製造業では製品開発や生産技術の向上に役立ち、教育機関では新しい教育プログラムの開発に応用されています。
実践における課題
しかし、SECIモデルにはいくつかの課題もあります。
暗黙知を形式知に変換するのは容易ではなく、また、組織文化が知識共有を妨げる場合もあります。
そのため、実際の運用においては柔軟な適用が必要です。
終わりに
野中郁次郎のSECIモデルは、知識創造のプロセスを理論的に説明し、実践に役立つツールを提供しています。
組織は、このモデルを活用することで、継続的な成長とイノベーションを実現することができます。
SECIモデルの理論と実践をバランスよく取り入れることで、知識創造の旅はより実り多いものとなるでしょう。